特集:歴女・史男の伊都国マンポー『芥屋の大門エリア』を歩く
糸島の歴史や暮らしに触れながら歩く!
11月24日、『第56弾 歴女・史男の伊都国マンポー「芥屋の大門(けやのおおと)エリア」』が行われました。
歴女・史男の伊都国マンポーは、2011年から行われているウォーキングイベント。主催は糸島観光フレッシュガイド。マンポーは1万歩の意味で、糸島の自然や歴史に触れながら、1万歩ちかく(8km程度)歩きます。
今回歩くのは、芥屋の大門エリア。日本最大の玄武岩洞・芥屋の大門の周辺は、古代神話に登場する神々が多く祀られ、神話の舞台となった痕跡が伝え残っています。
朝9時半、芥屋の大門公園駐車場に集合。簡単な準備運動をして、すぐ隣にある大祖神社からスタートしました。
大祖神社の御祭神は、伊弉諾神(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)、天照大御神(あまてらすおおみかみ)。明治44年に12柱加わり、現在は15柱。
「大祖神社の境内には土俵があり、毎年9月1日に『風止めの奉納相撲』が行われています。台風の大風を防ぎ、五穀豊穣を祈願する神事で、その年に生まれた男の赤ちゃんが力士に抱かれて土俵入りします。大正時代には、芥屋出身の力士がいたんですよ。『大門岩』という名で、関脇までいきました」など糸島の歴史の話をしてくれるのは、糸島観光フレッシュガイドの皆さん。本日の担当は、岩田さん、松井さん、常盤さん。「拝殿には人懐っこい黒猫がいるんですよ」という話をしながら拝殿へ。
拝殿には立派な結綿があります。
「大祖神社では、毎年1月7日には鷽(うそ)替え神事が行われます。鷽といったら太宰府天満宮を思い浮かべる人が多いかもしれません。大祖神社のなかに菅原道真を祭神とした天満宮があるので、太宰府天満宮と同じように鷽替え神事が行われます。知らず知らずのうちについた嘘を、天神さまの誠の心に取り替えるという神事。その際に用いられる木鷽は、芥屋に暮らす2人の職人さんの手によって作られています。一度木鷽の作り手が途絶えたものの、『太宰府木うそ保存会』に何度も足を運んで学び、見事に復活させました」。大祖神社の鷽替え神事(2025年1月7日)は14時からが行われ、その後、木鷽が販売されます。
大祖神社から住宅街(?)を通り、鹽土(しおつち)神社へ向かいます。途中、石碑がありました。
「こちらの碑は、『三島礒右衛門 頌徳碑』。三島礒右衛門は、芥屋村杜氏組合を作った人物。昔、芥屋には冬になると酒蔵に出稼ぎに出る杜氏集団『芥屋杜氏』がいました。杜氏は酒造りにおける親方のようなもの。昭和30~40年代全盛期には、30人ほどいたそうですが、三島礒右衛門さんは、杜氏組合を作り、酒造りの講習会を開き、技術指導を行い、杜氏の技術を向上させていったのです。芥屋杜氏たちは、それぞれの蔵で造った酒を持ち寄って利き酒会なども行っていたそうです。『何本煙突数えたか』と聞き合い、数が少ないほうが1つの蔵で重宝された証とあって、自慢し合うこともあったとか。芥屋の男性は酒蔵に働きに行くので色白美男子。野北の女性は魚の行商をしてよく働いていたので、『野北女に芥屋男』と言われていたそうです」。
芥屋杜氏の話を聞きながら歩みを進めると、鹽土(しおつち)神社に到着。
鹽土(しおつち)神社の近くでは、芥屋かぶを受け継ぎ、外に発信している方がいます。芥屋かぶは、江戸時代から続く伝統野菜で、赤紫色が特長のかぶ。芥屋の土地でしかこの色が出ないと言われています。干して海水でもんで漬物にすることから『海の漬けもん』と呼ばれていたとか。
「鳥居に飾られている注連縄。教師宮沢賢治のしごと(畑山博・小学館文庫)によると、横の注連縄は雲、細く下がっているのは雨、白いギザギザの紙垂(しで)は豊作をもたらすと考えられていた稲妻を表しているそうです」。いつも目にする鳥居の注連縄ですが、それが何を表しているのか考えたことがなかったので、とても勉強になります。
鹽土神社のご祭神は、鹽土老翁命(しおつちおじのみこと)。鹽土老翁命は潮流を司る神で、『しおつち』は『潮の霊』『潮つ路』を意味します。海幸彦の釣り針をなくして途方に暮れる山幸彦の前に現れ、良い潮路に乗る方法を伝え海神の宮へ行かせた神様としても知られています。
境内には、お酒の神様として知られている松尾神社が祀られています。きっと、芥屋杜氏たちは、酒造りがうまくいくようにと熱心に参ったことでしょう。現在、芥屋に杜氏はいません。数年前に地元白糸酒造を引退した杜氏が、最後の芥屋杜氏となりました。
さて、鹽土神社の次は、東黒磯海岸へ向かって歩いていきます。黒磯海岸は、日本最大の玄武岩洞である芥屋の大門の東と西に位置する海岸で、砂浜ではなく、玄武岩の黒い岩がゴロゴロしています。
「このあたりは波風が強く、その影響で玄武岩か削られ、芥屋の大門ができました。削られた玄武岩の円礫が、黒磯海岸です。芥屋の大門を中心に、東側1,000m、西側800mほど連なっています」。
海沿いは、現在はキャンプ場ですが、以前は一面にうす紫色の浜大根が自生していました。しばらく歩くと、大門神社の鳥居に到着。
「大門神社のご祭神は綿積見大神(わたつみのおおみかみ)、大戸之道尊(おおとのじのみこと)、大苫之尊(おおとまべのみこと)ですが、社殿や拝殿はありません。芥屋の大門だけでなく、ここから見える海そのものが御神体であり万物と考え、敬っていたのかもしれませんね」。大門神社の鳥居越しには、今も昔も変わらぬ景色が広がります。昔の人たちは、何を想い、この景色を眺めていたのでしょうか。
大門神社の鳥居近くに、ダルマギクが咲いていました。
大門公園でお弁当を食べ、西黒磯海岸を歩きました。ここからは、烏帽子島灯台、姫島も見えます。
「姫島には、幕末期に勤王の志士をかくまった罪で流された『野村望東尼(のむらぼうとうに)』の御堂があります。野村望東尼は、幽閉10カ月後、かつてかくまった高杉晋作の手配によって救出されました。野村望東尼サミットが、2025年5月17日、姫島で開催予定です。姫島には野村望東尼にまつわるエピソードが残っているので、深く知るきっかけになればと思います」。
芥屋海水浴場、天神山貝塚の説明を受け、松原天神社、久保地古墳群跡付近を歩き、芥屋の大門駐車場に戻り、終了。
今回の歴女・史男の伊都国マンポーに参加して、芥屋に暮らす人たちの息吹や歴史を知ることで、今まで以上に芥屋に愛着が湧くようになってきました。
街歩きや歴史が好きな方は、ぜひ一度、歴女・史男の伊都国マンポーに参加してみてはいかがでしょうか。知られざる糸島に出会えますよ。次回は3月を予定しています。詳細が決まりましたら、HPやSNSでお伝えします(2024年11月28日)。
基本情報
- 開催日時
- 2024年11月~